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TMKプロジェクトは京都大学と 田辺三菱製薬株式会社との連携プロジェクトです。                                                              ▼English


森 潔 PI



これまで一貫して細胞間情報伝達分子による腎臓病の診断・治療・病態解明・臨床応用に重点を置いて腎臓病の研究を進めて来ました。現在、MIC・TMKプロジェクト・森グループではポドサイトに特異的に発現する受容体やリガンドに着目し、細胞外からポドサイトなどの機能や慢性腎臓病の病態を修飾する方法を探索しています。以下にこれまで共同研究者らと共に発表してきた成績をまとめました。

【腎臓に発現する新規分泌シグナルの探索】
細胞間情報伝達分子の単離を可能とするシグナルシークエンストラップ法により、マウス腎臓に発現するホルモン、受容体、酵素、接着分子、トランスポーターなどのスクリーニングを行いました[Mori, Clin Exp Nephrol 2010]。その中には新規膜結合型炭酸脱水酵素、レニンと42%のアミノ酸相同性を有するプロテアーゼやKidney injury molecule-1と相同性の高い分子(TIM-2)などが含まれていました[Mori, FEBS Lett 1997; Mori, J Biol Chem 1999; Mori, Clin Exp Nephrol 2010]。
次にsuppressive subtractive hybridization法により、培養ポドサイトに高発現し、ラットThy-1腎炎の回復期に発現増加する分子としてcysteine-rich protein 61 (Cyr61)を同定し、Cyr61がメサンギウム細胞の遊走を抑制すること、血管内皮細胞の接着を増強することを示し、Cyr61が糸球体腎炎の病態形成に関わっている可能性を提唱しました[Sawai, J Am Soc Nephrol 2003; Sawai, Am J Physiol Renal Physiol 2007]。
さらにコロンビア大学のJonathan Barasch博士のもとに留学し、器官培養+カラム精製法によりラット胎児腎臓の後腎間葉系組織を尿細管・糸球体へ変換する尿管芽由来の分泌蛋白のスクリーニングを行いneutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL)を同定し[Yang, Mol Cell 2002; Mori, Semin Cell Dev Biol 2003]、ヒトの慢性腎臓病、急性腎障害において腎組織、血液、尿中のNGALが著しく増加することを世界に先駆けて報告しました[Mori, J Clin Invest 2005]。
帰国後は繻エらと共に1型および2型糖尿病性腎症モデルマウスの糸球体において共通に発現増加する分子としてtoll-like receptor 4 (TLR4)およびそのリガンドの一つmyeloid-related protein 8 (MRP8 or S100A8)を同定しました[Kuwabara, Diabetologia 2012]。マクロファージへのMRP8添加は強力に炎症性サイトカインの発現を誘導し、マウスおよびヒトの糖尿病性腎症では重症になるほど糸球体に浸潤するMRP8陽性マクロファージが増加し、腎予後を規定する独立した危険因子でした[Kuwabara, Clin Exp Nephrol 2014; Kuwabara, Plos One 2014]。一方、TLR4欠損マウスでは糖尿病性腎症の重症化が抑制されていました [Kuwabara, Diabetologia 2012]。

【血中・尿中腎疾患バイオマーカーの動態に関する研究】
シンシナティ子供病院のPrasad Devarajan博士らと共に、小児開心術後の急性腎障害は手術の約2日後に血清クレアチニンが1.5倍以上に上昇してから診断されるのに対して、血中・尿中NGALは手術2時間後からすぐに著しく増加し、急性腎障害の超早期診断を可能とすることを報告しました[Mishra, Lancet 2005]。成人の開心術後の急性腎障害においても血清クレアチニンは手術3日後まで増加しつづけたが、尿中NGALは手術翌日には低下し始めていました[Wagener, Anesthesiology 2006]。このようなバイオマーカーの経時的変化の違いを理解するために「腎不全の山火事理論」を提唱しました[Mori, Kidney Int 2007]。血清クレアチニンやGFRは山火事では元気な樹木と焼け落ちた樹木の割合の指標に相当するのに対して、尿中NGALは山火事では炎の勢いの指標に相当するので、お互いに独立した動きをとり得ると考えられました。ただ実際には次のように尿中NGAL増加のメカニズムは複雑であることが明らかとなってきました。
 結論的には、尿中NGALを規定するのは@遠位ネフロンでの産生増加、A近位尿細管での血液由来NGALの再吸収不全、B感染などによる血中濃度の増加のすべての総体であると我々は考えています。@についてはin situ mRNA hybridizaion法あるいはNGALの発現を反映するレポーターマウスにより示されました[Schmidt-ott, J Am Soc Nephrol 2007; Paragas, Nat Med 2011]。Aについては糖尿病性腎症モデルマウスや一側尿管結紮時の健常側腎において遺伝子発現の増加がほとんどない条件下で尿中あるいは腎組織中のNGALが著しく増加することから示されました[Kuwabara, Kidney Int 2009; Kasahara, Nephrol Dial Transplant 2006]。Bについては骨髄移植後の細菌感染における血中・尿中NGALの推移を発表しています[Kanda, Clin Exp Nephrol, epub]。血中NGALが末梢血好中球数や栄養状態の栄養を受けることも明らかとなっています[Kanda, Clin Exp Nephrol, epub; Imamaki, submitted]。血液由来分子の近位尿細管における再吸収の問題は、この10年間使われてきた、あるいは今後開発される尿中バイオマーカーの有用性評価において重要な課題となるものと考えています。

【急性腎障害バイオマーカーNGALの多彩な全身作用】
先述のようにNGALには腎分化誘導作用がありますが、急性腎障害のモデルに投与すると強力な腎保護効果を鉄依存性に発揮しました[Mori, J Clin Invest 2005]。一方、緩徐に進行する慢性腎臓病のモデルでは野生型マウスのほうがNGAL欠損マウスよりも腎病変が進行しやすい結果でした[Viau, J Clin Inest 2010]。これらは、NGALによる近位尿細管の増殖作用[Mori, J Clin Invest 2005]が急性期には保護的、慢性期には増悪的に働くことが一因と考えています。尿路感染ではalpha intercalated cellsはTLR4を介して尿路感染を認識し、尿の酸性化および尿中へのNGALの分泌により細菌増殖を抑制することが明らかとなりました[Paragas, J Clin Invest 2014]。NGALの発現は癌でしばしば増加しており、乳癌のモデルではNGALの発現は転移・浸潤を抑制しました[Hanai, J Biol Chem 2005]。マウスおよびヒトの尿などの体液中にはNGALと鉄の結合を媒介する小分子が存在することを見出し[Mori, J Clin Invest 2005; Barasch and Mori, Nature 2004]、何年もかけて同定するとカテコールやポリフェノールなどの多数の有機化合物にそのような活性があることが分かり、NGALは生体内の鉄の分布に影響を及ぼすと考えられました[Bao, Nat Chem Biol 2010]。NGALは中枢神経系にも発現しており、アストロサイトにNGALを添加するとアポトーシスが誘導されました[Lee, J Neurosci 2009]。また野生型マウスの脳内にlipopolysaccharideを投与するとミクログリ細胞がM1マクロファージ様の性質を獲得すると共に、脳内炎症、活動性低下、認知機能低下などが生じるのに対してNGAL欠損マウスではこれらが軽減されていました[Jang, FASEB J 2013]。
当院呼吸器内科との共同研究で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者においては重症度に応じて血中NGALは増加しました[Murase, Plos One 2013]。また特発性肺線維症患者においては嚢胞性病変の変性肺胞上皮にNGALおよび組織障害性プロテアーゼMMP9が高度に発現しており、NGALがMMP9の活性強化により特発性肺線維症の病態形成に関わっている可能性があると考えられました[Ikezoe, Eur Res J 2014]。

【その他の分泌シグナルに関する研究】
旧内分泌代謝内科腎臓グループにおいてはadrenomedullin [Nagae, Kidney Int 2008]、brain natriuretic peptide/guanylate cyclase A receptor [Suganami, J Am Soc Nephrol 2001; Makino, Diabetologia 2006; Ogawa, J Am Soc Nephrol 2012]あるいはprostaglandin E2 receptor EP1 subtyte特異的阻害薬による腎保護効果[Suganami, J Hypertens 2001; Makino, J Am Soc Nephrol 2002]、およびconnective tissue growth factorによる腎障害[Yokoi, Am J Physiol Renal Physiol; Yokoi, J Am Soc Nephrol 2004; Yokoi, Kidney Int 2008]とそのメカニズムを報告しました。一連の研究を通じて、ナトリウム利尿ペプチドは血管拡張、ナトリウム排泄促進、ポドサイト保護などの複数の作用点でレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系と拮抗しており、細胞間分泌シグナルは一つの大きな目的を達成するために、多数のターゲット細胞に対して様々な出力を導き出すことを学びました。
強力な食欲調節因子ghrelin [Mori, FEBS Lett 2000; Takaya, J Clin Endoclinol Metab 2000; Ariyasu, Endocrinology 2002; Yoshimoto, J Am Soc Nephrol 2002]、leptin [Isse, J Biol Chem 1995; Masuzaki, Diabetes 1995; Ogawa, J Clin Invest 1995; Takaya, Biochem Biophys Res Commun 1996; Ebihara, Biochem Biophys Res Commun 1997; Suganami, FASEB J 2005]あるいは老化関連分子klothoに関する研究も行って来ました[Mori, Biochem Biophys Res Commun 2000; Yahata, J Mol Med 2000; Yahata, Biochem Biophys Res Commun 2003]。第一glucosidase様ドメインのみを有する分泌型klothoの過剰発現マウスを作出したところ、klotho mutant miceの表現型を明らかには救済できませんでしたが、このtransgeneをホモにすると小脳失調様歩行を呈するラインが偶然見つかりました。星野らによるpositional cloningにより小脳および膵臓発生に重要な転写因子Ptf1aの転写調節領域が破壊されていること、小脳前駆細胞のデフォルト経路はグルタミン酸産生細胞であるが、Ptf1aを発現するとGABA産生細胞に変換され、両細胞が固有の投射先に連結されることで小脳発生が完成することが明らかとなりました[Hoshino, Neuron 2005]。

今後も腎臓病診療を変革しうるような発見を夢見て、研究を続けたいと考えております。

リンク http://kyouindb.iimc.kyoto-u.ac.jp/j/aS8hQ


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